第4回(最終回/後半)
多リスク因子症候群としての感染根管歯の予知性をどう判断するか

【臨床症例2】前歯部補綴装置が脱離し、審美障害を主訴に来院

 口腔内所見、レントゲン所見でかなり咬合状態が悪化し、明らかな病的咬合を呈していた。初診日より年ほど前に全顎的な補綴処置を受けており、その後定期的なメンテナンスは行わず、現症に至った。早急に口腔内の機能回復の必要性があることをカウンセリングし、総合的な診断を行うために基礎資料を収集した。模型診断において咬合状態は骨格Ⅱ級で、元々アンテリア・カップリングしていない咬合状態だったと推測した。患者自身のプラークコントロールの悪さからカリエスの進行は全顎に渡り認められるが、ペリオの進行度合いは軽度と判断した。残存歯の保存について上顎の左右最後方臼歯と下顎前歯部に関しては有髄歯であることと、ポジション的にコントロール可能と判断し、保存することとした。上顎前歯部の無髄歯に関しては、個々の歯の残存歯質や根尖周囲の歯周状態だけを評価すると十分保存可能であると診断したが、咬合治療によって治療咬合を与えるには残存する下顎前歯に対しては骨格Ⅱ級であるためかなり前方に位置し、ポジションの改善の必要があり、ポジション改善には矯正治療が必要であると判断した。しかしながら天然歯を残存させることを優先すれば治療期間が長くなり、機能不全を呈しているこのケースでは治療期間を優先し、天然歯の代わりに埋入ポジションを考慮したインプラントを用いることによって補綴装置のポジションの改善を図り、治療咬合が図れることを優先した。

 よって上顎は左右7を保存し、欠損部に関してはインプラントを用いたブリッジで修復。下顎は両側遊離端欠損部に関してはインプラントにて回復し、下顎前歯部に関しては歯冠修復によって咬合接触をコントロールすることを計画した。治療計画通り処置を行うことができ、メンテナンスに移行した。患者の都合で年近くリコールが途絶えたが、再初診が2025年5月で術後16年以上が経過。メンテナンス不足により天然歯はカリエスが進行し保存不可能になったが、インプラントの状態は良好な状態が維持され、口腔機能の維持が保たれている。歯科医として歯の保存に努めるのは当然のことだが、対極の立場に立ち、口腔内全体を治療するために何を優先すべきかを考えさせられるケースになった。

 症例2はインプラントを用いた全顎的咬合再構成症例を提示した。術後10年以上経過し、その間このようなインプラント症例に対してデジタルを活用することで、より治療計画の遂行が確実になったと考える。症例2に似た症例でデジタルを活用した症例を提示する。今後のインプラント治療を含めた修復治療、矯正治療においてデジタルを活用する用途がますます増えてくると考える。(図15~図27)





























【臨床症例2・補足症例】紹介歯科医院より上顎前歯(右上2番)の根管治療の診断を目的に来院

 上顎はほぼ全額にわたり補綴処置がなされており無髄歯も多数認められた。欠損部にはロングスパンのブリッジが装着され、支台歯の負担過重が予測された。症例2のように個々の歯の評価と咬合再構成を行うにあたり機能を回復し、長期的な予後の安定にはインプラントを用いた治療の方が有利であると判断した。インプラントを用いた補綴設計で、できる限りシンプルな設計になるよう考慮した結果、上顎の歯は全て抜歯しインプラントによる補綴を選択。下顎に関しては上下の顎間関係がⅢ級傾向を示し天然歯の位置で補綴処置を行った場合、交差咬合になるリスクがあったため、後方臼歯は抜歯してインプラントによる咬合回復を計画した。口腔内スキャンのデータとCBCTのデータをマッチングし、インプラントポジションを最終補綴のデザインから外科的に問題なく補綴形態に支障の出ない位置に決定をした。全ての治療計画・補綴設計が決定したのちに患者に説明し、同意を得たので治療を開始した。インプラント埋入には全てサージカルガイドを利用し、術前に計画したインプラントポジションに極力合わせるように努めた。プロビジョナル・レストレーションを装着し、審美的・機能的・構造的・生物学的に問題ないことを確認したのち最終補綴装置を装着した。サージカルガイドを用いてインプラントを埋入したことで、最初の術前の補綴デザインと大きく変わることなく補綴装置を装着できた。術後間もない症例であるため、これからはメンテナンスを通じて口腔内の機能安定が維持されていることを引き続き管理していきたい。(図28~図36)




















 今回の連載では、超高齢社会になり人生100年時代において『いつまでも健康で過ごすためには歯の健康が欠かせない』というテーマで、歯内療法学の立場から1本の歯を守るために有髄歯・無髄歯をどう扱って行くべきかということを、私見を交えて解説させていただきました。昨今の器具・機材の進化によって歯内療法学の分野では成功率が飛躍的に向上し、長期的に歯を保存できるようになってきたと思います。しかしながら、その歯の病態に陥った根本的な原因がその歯の環境であった場合は、その環境が改善しない限り真の治癒は確立できないと考えます。これからの時代、「どう治す」から「どう活かして機能させるか」を考慮して治療を行うべきではないでしょうか。

 この記事は、大阪府歯科医師協同組合の松下孝直先生のご厚意で連載の機会をいただきました。今年、同組合ホームページの学術動画企画として木原敏裕先生監修の元、矯正を酒井志郎先生、インプラントを中村雅之先生、デジタル・補綴を上原芳樹先生が担当され、『歯科治療を成功に導くために』というテーマで学術動画が配信されています。今回の連載においても、包括的歯科治療をベースに治療を行うという点で共通する内容になっておりますので、是非学術動画もご覧いただき、日々の臨床に役立てていただければ幸いです。今回の学術企画が先生方の臨床の一助になることを祈念して連載を締めさせていただきます。