“必見” 今まさに引退を考え始めている歯科医院の院長向け


100通りの歯科診療所の事業承継のかたち

事業承継の形は歯科診療所の場合、個人立、医療法人とで大きく大別できるだけでなく、100の歯科診療所があれば、100通りの事業承継があります。
例えば、家族構成、資産規模、診療所の売上規模や保険と自費の比率、患者数や診療単価、地域での診療所の位置づけなど、様々な状況で違うため、マニュアル的な回答や方法はありません。しかし、今回の連載から、引退を考え始めた院長が準備する考え方や手順、スケジュールなどを解説して参ります。

46%の院長が60歳以上の現実


この図は日本歯科医師会のデータですが、60代以上の院長の年齢がなんと約半分。50代以上で見た場合は、約2/3という結果があります。

この結果を見ると、引退や閉院、M&A、子供への承継、親族以外の勤務医の承継などを考えてはいるものの、現実的には、歯科医院の事業承継が進んでいないのが現実です。またそれ以上に、この問題にどう対処すべきか悩まれている院長が大勢いるのではないでしょうか。

事業承継を考えるタイミング

事業承継を考えるタイミングとして、どうしても肉体の衰えを感じ始めてから考え始めているケースが多いもの事実です。しかし、歯科診療所の事業承継は時間のかかる問題も多いため、事業承継を考え始めたら、直ぐに開始してくたさい。具体的なイメージがつかみ易いよう、今回は、親子間の事業承継をイメージして書かせていただきます。

歯科診療所の事業承継を考える際に注意すべき事 ~大きな2つの決断が必要~

いつかは後継者にバトンを渡すつもりでも、これまで苦労して作り上げてきた診療所を「明日から院長の交代」ですとは言いにくいのは当たり前であり、簡単ではないはずです。そのためには、事業承継の設計図をしっかり作成する事が大きなポイントとなります。
しかし、この設計図を作成する前に、院長先生自身が以下、二つの重大な決意・決断しなければなりません。
まず1つ目は、『院長を交代する時期』を決断すること、2つ目は『それをいつから準備するのか』を決めることです。
当たり前の事と思う院長先生もいると思いますが、この決断こそが歯科診療所の事業承継のスタートだと認識ください。この決意ができていないと後々、色々な問題が発生し、院長先生や親族が思う理想的な事業承継は遠のく結果となってしまいかねません。

さて、設計図を作ると言っても何もないところに絵は描けません。そこで、その注意点や考慮する流れをお伝えいたします。
図2の歯科診療所の事業承継の流れを見て感覚を掴んで頂ければと思います。 

[図2]事業承継の体系図

後継者がいる場合、「問題の整理」と「情報の整理」から始めます。
問題の整理と情報の整理の内容と手順は別途、図3で説明致します。

事前準備と自己診断のポイント

整理を始める際には、『歯科診療所に関するもの』と『個人に関係するもの』に分けて考える必要があります。
2つの項目それぞれに、『人間関係』⇛『診療方針』⇛『経営方針』⇛『資産・資金』を加えて検討してください。

[図3]自己診断書 ※ポイント:時間のかかるもの、難しい課題から取りかかりましょう!


個別に考えれば歯科診療所での問題と個人としての問題が浮き彫りになってくるはずです。更に、時間軸として現在の問題と、将来の起こる課題なども付け加えれば言うことがありません。
後日、後継者との面談や家族会議の資料として使うだけでなく、新たな問題の追加や対策なども記載できるため、項目ごとに書き出して活用してください。
正しい手順で事業承継を考え、しっかり準備すれば必ず納得のいくバトンタッチができるはずです。
実際のコンサルティングの現場では、何から手をつけて良いのか解らないと言う院長先生が多数居られます。
また、様々な理由で、後継者にバトンを渡す時期を逃しています。
後継者が不在で廃業を考えている診療所なら仕方ないとも思いますが、折角、後継者候補がいるのに時間だけが過ぎてしまうのは大変残念ことです。

『人間に関わる問題解決』こそ成功のカギ ~親族内の場合~

雑誌などでは、財産に関する記事や節税に特化した記事が目立ちますが、整理・解決すべきことはむしろ人間関係に関することになります。
個人に関する分野は、殆どの場合、親族内の問題、が大半となります。後継者がいる場合にはスムーズかと言うとそうでもありません。
例えば、候補者が二人いる場合や親子関係が複雑なケースや離婚した相手のとの間に子供がいる場合など、親族内にある人間関係に関する問題が大半を占めます。
この問題解決こそが、歯科診療所の事業承継の鍵となります。
時間が限られる事業承継は、親族内のトラブルも多く、打つ手も乏しく信頼関係の醸成も未熟なため、後継者は無駄な時間とコストに苦しむ承継となってしまいます。
何故、もっと早く対応してくれなかったのかとの思いだけが残らない様、例え後継者未定でも、院長先生自身の問題の整理と診療所の現状把握や人間関係に関する問題に早めに準備してください。
具体的な時期としては、親族が歯科大に入学した時期から着手し、後継者をじっくり育て、来るべき承継時期に備えた計画立案が必要です。

後継者育成の第一歩「後継者との個別面談」

下準備として、後継者との個別面談も欠かせません。勇退時期を決めている場合、後継者が歯科大に入学した時期から定期的に後継者と話す機会を作り始めて下さい。卒業後の修行中も、信頼関係の構築を兼ねた後継者との面談を重ね育成を図ってください。この時期は、技術的な会話も多くなると思いますが、後継者としての意識の醸成、後継者としての覚悟の芽を作る時期でもあります。
始めはぎこちないかもしれませんが、後継者の考えや意見を理解し、歯科診療所の経営者が承継すべきものを伝えていくことも必要なことです。これまでの院長の診療方針や経営方針、従業員の採用や育成方法など、多岐にわたる院長の経験談や考えを伝えると伴に、押し付けることなく、後継者自身に考えさせるのがポイントです。

後継者の育成 

後継者にとって長年経営に携わってきた院長に成り代わり、医院を経営する事は生半可なものではなく、『腹をくくらなければ』後継者として診療所経営を継続して行く事は容易ではありません。
基本に戻って最初に考えるポイントをまとめてみると、やはり「どの様な歯科医院にしたいのか?」に戻ります。
例えば、売上と利益を大切にしながらも、『患者さんに喜んでもらえる歯科医院作り』を目指すことですから、治療技術の向上だけではダメなことは理解できるものと思います。
次の図4の分類で考えて見ると多岐にわたる後継者の育成ポイントが見えてくるのではないでしょうか。

[図4]後継者の育成ポイント


初代の院長が開業した時代にはなかった項目も含まれているかもしれませんが、後継者を一人前の歯科医師にするだけでなく、経営者としての一面を磨き上げて行く事になります。
教育は時間のかかるものですから、院長だけでなく外部の力を借りるのも必要になります。

成功するポイントとして後継者の意見や主張を良く聞く事です。お勧めは、後継者と共通する問題を見つけることから始めてください。当たり前の様に書きましたが、これが中々出来ないので問題になるのです。
特に診療面については、共通認識の出来るものからで良いので、院長が高圧的にならず後継者と一緒に問題を解決していく姿勢こそが大切になります。
この段階でこじれてしまったのでは次に進めませんので、院長の我慢が大切になります。
例えば共通するテーマとして、『歯科医院を経営する上で最も大切なことはヒトに選ばれること』だと考えますので、患者さんへの対応は言うに及ばず、スタッフの採用方法・育成方法など、院長の経験値を共有してください。

他の事例として『地域の中で一番選ばれる歯科診療所になるためには』など課題を共有し、現代の歯科診療所が患者さんに求められているものは何か?を考えることで、お互いに納得する合意点を探し出すのも良いかも知れません。
時間をかけて(大学生の時代からでも良い)後継者と話し合う時間をつくり、院長の本心や後継者の想いや考え方などを理解しあえることで、スムーズな歯科医院の事業承継に繋がってまいります。


~事業承継に関する相談について~

後継者が不在の場合の閉院・診療所の売却や納得できる資産承継(相続プラン)幅広く相談を伺っております。
ご相談については、事業承継士がご相談を受けます。必要な際は、守秘義務契約を締結する事も行っております。
ワールドインシュアランスエージェンシー株式会社
一般社団法人事業承継協会 金融保険部会長 渡邊 司