“必見” 今まさに引退を考え始めている歯科医院の院長向け
「事業承継計画表の作成」と家族会議の重要性
日本の歯科診療所は、昭和36年国民皆保険制度創設後は、長らく歯科の開業には恵まれた時代が続きました。現在は、後継者不在や歯科診療所の増加に加え、人口の減少、高齢化と歯科診療所の経営環境が厳しくなると同時に歯科医院の承継は、重大な問題として認識が広がってまいりました。歯科診療所の事業承継を検討する際に、「設計図」である事業承継計画表を作成し、後継者の育成と併せて家族が納得する形での事業承継を考えて下さい。
「歯科診療所のための事業承継」第2回の今回は、事業承継を検討し始める際に、考慮すべき注意事項と手順、さらに、準備を行わなければならない「事業承継計画表の作成」についてお知らせ致します。
「事業承継計画表」は、歯科診療所の事業承継に失敗しないための「設計図」です。
そのために、事業承継計画表の作成は大きな意味をもちますので順を追ってご説明いたします。
事業承継計画とは
歯科診療所を取り巻く環境や経営状況、院長自身及び後継者候補の現状を踏まえ、相続の視点も含めて把握する必要があります。具体的には、現経営者に関する情報、診療方針(治療技術の伝承)、経営理念、財政状態、業績の推移、将来の経営ビジョンなどに加えて、資産の棚卸しも重要な準備となりますので、不動産などの資産や負債の一覧表の作成も併せて行ってください。事業承継計画書は、創業時の計画とは違って、『現経営の良い面と改善すべき点を併せ持ち、更に、後継者の育成を伴ったもの』であり、事業承継の具体的な目標や実施期間などを可視化することで、さまざまな課題が浮き彫りにするものです。
現院長先生の能力は、経験値が積み上がり歯科医師としての技量も円熟味を増し、歯科医院の経営者としてもまだまだ衰えるものではありません。
しかし、ハード面では、診療器具の更新が遅れてきていたり、新しい治療技術の取得の意欲が低下していたり、従業員の考え方のギャップや後継者との意見の相違など、加齢とともに競争力が落ちてきているケースが多くあります。
また、院長先生自身だけで悩むものではなく、新米経営者となる後継者と一緒に、考え悩みを共有するものなのです。院長からみたら問題でもないものが、後継者からみると問題と感じる部分も多くなると思いますが、まずは、経営面の計画を中心に診療方針のすり合わせなど、出来るだけ後継者と一緒に作成する事をお勧めいたします。
肝心なポイントは、後継者との面談を重ねて、院長が行う事、後継者が行う事をなど意思確認のほか、家族会議を通じて利害関係者との合意形成を行っていく事になります。
承継の方向性を決定し、スケジュール化する
勇退時期から逆算し、どのように承継するかを決定しスケジュールを具体化します。後継者教育、親族内の合意形成と診療体制の整備、相続対策(もめない対策)や納税資金対策などの実行時期を設定していきます。リタイヤ後の生活などの準備も必要に応じて準備します。
基本方針を決める
基本方針が固まらないと揉める原因になる事はご理解できると思いますが、作成にあたり不確定要素があるにしても、何年後に承継するなどのゴールを決める事や何年後などの数字を入れたものにする事がポイントになります。<例>
①現院長から長男へ事業承継する。
②3年目の68歳の時に院長の変更、その後3年間は、現院長が月曜日・火曜日の午前中の診療を行う
③3年後には完全に引退。
④引退するまでは、大規模な設備等の入れ替えは 行わない(承継までに検討する)
⑤診療所の土地、建物は後継者である長男が相続する
⑥後継者以外の相続人に対しては、生命保険金と 預金、株式の売却代金を充てる。など
対策について(経営面)
第1回で人間関係の問題解決は記載しましたので、ここでは歯科診療所の経営面について解説致します。承継予定時期から逆算して、それまでに「現院長が行う事」、「承継後に後継者が行なう事」を区別して下さい。
地域の歯科診療体制の状況を鑑み、診療方針と併せて今後の売上と設備投資計画から検討して下さい。
つまり、機材の入れ替えや診療所の改装など大規模に費用がかかるものは後継者自身が考え、売上と設備投資に対する費用対効果の検証など、後継者が自らの責任で歯科診療所の経営者としての『自覚』と『覚悟を持たせる』事が事業承継計画の本質です。
いつまでに何をするかを考えさせ、歯科医師としてだけでなく、一人前の歯科診療所の経営者を誕生させることで、歯科診療所の事業承継が納得できるものとなるものと確信いたします。
作成後は、計画の進捗を定期的に把握し、場合によっては軌道修正するなど長期にわたりフォローが必要です。
家族会議の重要性
仲の良い家族には不要と思われるかもしれませんが、家族会議は株主総会に代わるものとして、後継者だけでなく奥様や兄弟を含め、将来に禍根を残さないための親族内の合意形成の場として必要な準備になります。後継者に兄弟がいる場合は、特にトラブルを防止するためにも『父の愛』と『母の愛』の違いを理解し、後継者を決める際、もしくは、決める前に家族が集まって開催してください。事前準備で作成したシートがここで活躍します。
それぞれ将来に対する考え方や資産の移転に関する事など、各自の意見を聞く場としての機能と合意形成の場としての機能を持つのが、家族会議開催のポイントです。
しかし、余程の準備がなければ、ここでの合意形成の大半はスムーズ行きません。最初に問題の整理を怠ると、無駄な時間だけが過ぎていくことになり、問題の本質が何かを理解する事が出来れば、対応策や解決できる時間を得ることができます。
事業承継計画書作成のポイント
現院長や奥様の個人的な判断で物事を進めようとすると、大きな見誤りが生じる事を沢山見て参りました。その結果、後継者が診療所を承継する気になっていても、厳しい経営環境の中ため診療所の承継を院長自身の判断で諦めてしまう事などが起こっています。
子供に苦しい思いをさせたくないという思いから、コロナ渦による売り上げ低下や借入金の増大など、経営環境は数年前に比べても厳しいと言わざるを得ない状況での判断たったと思います。
特に、相続と贈与税に関しては、2024年1月から大幅に変更されるこことなっているため、既に対策済みという場合でも、見直しが必要になっています。また、「個人版事業承継税制」についても2024年3月31日までに都道府県知事に提出し確認を受けた者に限るため、早急に検討することが必要と考えます。
歯科診療所の事業承継は、100の歯科診療所があれば100通りの事業承継の形はあるため、考える範囲も広く簡単に答えが出ないものばかりになります。その簡単には答えが出ないもの程、重要であり放置してはいけないものではないかと思います。
そのため基本に沿ってまずは一度作成して見てください。作成の過程で色々な気づきや発見が必ずあります。
どうしても、考えがまとまらない場合や定期的に相談サポートが必要な場合には是非ご相談ください。
~事業承継に関する相談について~
後継者が不在の場合の閉院・診療所の売却や納得できる資産承継(相続プラン)幅広く相談を伺っております。ご相談については、事業承継士がご相談を受けます。必要な際は、守秘義務契約を締結する事も行っております。
ワールドインシュアランスエージェンシー株式会社
一般社団法人事業承継協会 金融保険部会長 渡邊 司