小児歯科医としてお伝えしたいこと
第4回(最終回) よくあるQ&A
これまでに、小児歯科専門医の立場から様々なトピックについて触れさせていただきました。最終回の今回は、日常臨床でよく遭遇するご質問の中から、頻度が高いものをいくつか取り上げさせていただきます。
■マタニティ歯科について
Q. 妊娠期には歯の治療はできるのですか?
A. 妊娠期の歯科治療は敬遠されることもあるのか、どこに相談してよいか悩んでいる方もおられるようです。小児歯科領域では、子どもを連れてくる母親から、第2子以降を妊娠した時や、妊娠を予定している場合にご相談を受けることが多くあります。妊娠期には唾液分泌が少なくなったり、つわりで歯磨きが難しくなったり、口の中が酸性になったりすることで、う蝕や歯周病などの様々なトラブルが生じることが多くあります。そこで、その時点でどのような対応が可能なのかを理解いただければと思います。
【表1】に、妊娠期の歯科治療の注意点をまとめていますので、ご参考にしていただければと思います。また、出産直後には色々なことに忙殺され、歯科領域のことなどを考える余裕がないことが多いのも現実です。そこで、私たちは新生児に生じることのある問題点についても、出産前にお知らせしておくようにしています。具体的には、先天歯や萌出嚢胞(図1)のような疾患や、乳幼児期の口腔清掃法などについて説明しています。また、最近注目されている「歯周病と早期低体重児出産との関連」についても、エビデンスを基にして啓発しています。
【表1】妊娠期の歯科治療
■吸指癖について
Q. 指吸いがなかなかやめられません。どうしたらよいですか?
A. 指吸いは親指を吸うことが多いですが、他の指のこともあります。また、タオルなどを口に入れる場合も見受けます。いずれのケースにおいても、歯に力がかかることで歯の位置の移動が生じてしまいます。(図2)と(図3)に最も典型的な親指の吸指癖の症例を示します。「奥歯は噛んでいるが、前歯はすいている」というような表現をされる保護者も多いことかと思います。吸指癖が続くと、このような「開咬」を引き起こすだけではなく、頬の筋肉が上顎臼歯部を内側に押すことによって「上顎乳臼歯部の狭窄」も生じてきます。吸指癖は、成長に伴って自然に消失することが多いとされていますが、なかなかやめられないというご相談もあるのではないでしょうか。一般的には、4歳代までに止めることができれば、口の周りの筋肉の作用で出てしまった上の前歯が、唇の周りの筋肉で内側に押されて自然に元に戻ってくるとされています。
しかしそれ以降も続く場合は、中止を促す指導の必要性が生じてきます。もしうまくいかない場合には、習癖除去装置の応用も考慮することになります。ただ、上顎が元々前に出ているような家族歴があれば、早めに矯正治療の専門家に相談しておくことをお勧めしています。
■正中離解について
Q. 上の前歯がすいています。見栄えが悪いので何とかならないでしょうか?
A. 小児歯科領域の教科書には、「みにくいあひるの子の時期」という用語の解説が記載されています。〔図4)に示しますように、上顎切歯は「ハの字型」に生えてきますが、犬歯が内側向きに生えてくる時期になって、この隙問が閉じてくるようになります。それまでは、すいているのは標準的な状態ということになります。ただ、上顎切歯部に過剰歯が存在すると、犬歯が生えてきても正中の隙閻が閉じられないことがあります。また、上唇小帯の付清異常で上顎歯の間に入り込んでいる場合や、側切歯が先天性欠如であったり、矮小歯であったりした場合にも、隙間が閉じられない原因になり得ます。犬歯が出てきても隙間が残っている時には、原因をはっきりさせて対応する必要があります。ただ、歯列不正の家族歴があれば、早めに矯正治療の専門家に相談しておくことをお勧めしています。
■フッ化物について
Q. フッ素を塗ったら黒くなるのですか?
A. う蝕の進行抑制のためにフッ化ジアンミン銀の使用を考慮されることもあるかと思います。しかしフッ化ジアンミン銀は、う蝕病変に取り込まれて反応が起こり黒くなるということを、事前に十分説明しておく必要があります(図5)。また、一般的にう蝕予防のために塗布する高濃度のフッ化物との違いを、明確に説明しておくことが重要です。
一方で、一般的に塗布する高濃度のフッ化物の使用に関しては、生えたばかりの永久歯や初期う蝕を呈している歯に効果が高いことを啓発していただければと思います。ただ、フッ化物だけでう蝕が予防できると思い込んでいる保護者もおられますので、塗布時には一般的な蝕予防法についても再度確認される方がよいかと思います。
最近は、フッ化物配合の歯磨剤をわざわざ探さなくても、配合しているものを簡単に見つけることができるかと思います。日々のブラッシングの際に、フッ化物入りの歯磨剤を使ってもらうことには大変意義のあることだと思います。日本では、歯磨剤に配合できるフッ化物の上限は1,000ppm(0.1%)が上限とされてきましたが、2017年3月より国際基準である1,500ppm(0.%)まで上限の引き上げが厚生労働省より認可されました。ただ、同時に6歳未満の子どもに対しては、1,000ppm以上の高濃度のフッ化物配合歯みがき剤の使用は控えることや、手の届かないところに保管することが通知されていますのでご注意ください。
■日本小児歯科学会専門医について
Q. 日本小児歯科学会専門医はどのようにしたら探せますか?
A. 日本小児歯科学会には、約1,100人の専門医資格を有する人がいます。これらの歯科医師は、日本小児歯科学会のホームページから検索でき、各都道府県別にリストを参照することができます。患者さん向けの情報ではありますが、歯科領域の方々にもお近くの専門家を把握しておいていただくことで、難症例のご紹介やご相談などで、何かと頼りになる存在になるのではないかと思います。
また、私ども大阪大学歯学部附属病院小児歯科の施設には多数の専門医資格を有するものが在籍しておりますので、お気軽に患者さんをご紹介いただければと思います。
~筆者プロフィール~
仲野 和彦
<略歴>
◎1996年 大阪大学歯学部卒業
◎2002年 大阪大学博士(歯学)
◎2014年 大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学教授(〜現在)
◎2014年 大阪大学歯学部附属病院小児歯科科長(〜現在)
◎2018年 大阪大学大学院歯学研究科副研究科長(〜現在)<役職>
◎日本小児歯科学会常務理事(国際渉外委員長)
◎日本小児歯科学会近畿地方会会長(常任幹事)
◎日本小児歯科学会専門医指導医
◎日本循環器学会「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版)」班員