第4回(最終回) 歯周組織再生療法の原則と臨床
第3回は、歯周組織再生療法(以下、再生療法)の概論と、2017年より保険収載された歯周再生療法薬剤のリグロス®に関して作用機序を整理するとともに、著者が臨床で用いた際の臨床実感も含めまとめた。第4回(最終回)は、その再生療法について少し踏み込んだ内容とし、再生療法を実践するにあたり厳守すべき事項や成功に導くために重要な原理原則、さらには、その臨床についてまとめる。ために重要な原理原則、さらには、その臨床についてまとめる。
昨今、再生療法が保険収載され予知性も高まりつつあり、多くの歯科医師が手掛けるようになってきているように感じる。もちろん、再生療法においても誰が施術しても同じ結果が得られる〝科学性〞が必要であることに変わりない。再生療法の適応症拡大、さらに患者にとって満足のいく結果を得るための治療戦略は日々進化しつつある一方で、安定した結果を得るための必要条件は、今も昔も変わらず、重要な要素として注目すべきポイントである。
まずは、再生療法を適応できる患者の選択基準をどのように考えるべきか、また再生療法を成功に導くための原則はどういったものなのかについて解説していく。
<再生療法を適応できる患者の選択基準>
再生療法は、深い歯周ポケットと同時に垂直的な骨欠損が存在すれば適応される訳だが、それだけで判断しても良いのだろうか。本来、再生療法を適応する場合は、骨欠損のみで判断するのではなく、「局所要因」(患者の口腔内全体の状態)、「行動要因」、「全身性要因」も考慮する必要がある(図1)。中でも最も重要なことは、プラークコン
トロールであり、さらには、残存する歯肉の炎症が低いレベルでコントロールされていることも重要な要素である。具体的には、基本治療後に全顎的なプラークスコアー(FMPS)およびブリーディングスコアー(FMBS)が、それぞれ15%以下にコントロールされる必要性が示されている。さらに、行動要因として、喫煙者には禁煙指導を行い、患者のコンプライアンスが高いレベルで維持されていることも重要であり、全身性要因として、ストレスやコントロールされていない糖尿病など、他の全身疾患は術前にコントロールしておく必要がある。もし、これらが良好にコントロールされていなければ、治療結果は限定的になることを理解しておかなければならない。
<再生療法において安定した結果を得るための必要条件>
次に、再生療法を満足のいく結果に導くためには、左記の注意すべき3項目があり、「創傷部の保護」、「スペースの確保」、「血餅の維持安定」が重要であるとされている(図2)。いずれも再生療法を行う際や行なった後に注目すべきポイントであるため、しっかり把握しておく必要がある。
※重要なポイント
1⃣損傷部の保護
創傷部の保護とは、再生療法を行なった後、歯肉弁を戻した際に創部の裂開や壊死が起こらないように配慮することを指す。再生療法は、歯間乳頭保存術(図3)を用いて切開を行い、患部は完全に歯肉で覆った状態で手術を終える必要がある。その為には、切開部の血管再吻合を早期に回復させ、初期閉鎖を得ることが重要である。それが達成できれば、術後の裂開を防ぎ細菌による汚染を回避することができ、結果として期待した再生量を得ることが可能となる。
よって、術後に歯肉が裂開を起こさないように歯肉弁をテンションフリーで緊密に一次閉鎖する必要性や術後ブラッシングを開始するタイミングや方法など、患者指導も結果を左右する要因となり得る。
2⃣スペースの確保
スペースの確保とは、歯肉弁と歯根表面との界面に血餅を保持できるスペースを確保する必要性を言い、このスペースが確保できなければ再生は起こらない。つまり、これは骨欠損形態に大きく依存し、狭く残存骨壁のある3壁性骨欠損のような欠損の場合は、スペースが容易に確保でき、逆に広く残存骨壁の少ない1壁・2壁性骨欠損の場合は、スペースの確保が困難となるため、骨移植材やメンブレンなどを用いて再生スペースを確保することとなる。
したがって、骨欠損形態によって、いかに治療戦略を練るかが再生療法の鍵を握ることになる。いずれにおいても骨欠損形態は、再生療法の予知性を測る重要な因子であるため、術前にしっかりと把握しておく必要がある(図4)。
3⃣血餅の維持安定
血餅の維持安定は、創傷治癒との関連性があり、一般的に創傷治癒期は、①炎症初期および炎症後期、②肉芽組織形成期、③基質の形成と改造期の3つに分かれる(図5)。
創傷初期には、フィブリンが血小板とともに重合し、血球を取り込んで血餅を形成する。その後、血餅が置換した細胞を多く含んだ結合組織が現れ、7日後には、肉芽組織形成期に移行し、象牙質表面に接着した後、基質の形成と改造期へと移行するとされている。よって、歯根面に接着した血餅は初期の創傷治癒の一部分を形作り、象牙質表面での結合組織付着は、血餅の成熟と歯根面への持続した接着によって起こるとされている。つまり、歯周組織の再生にとって、いかに未分化間葉系細胞を歯根表面に誘導し増殖分化させるか、また、それらの細胞や血液中に含まれる成長因子などをいかに再生スペースに維持安定させるかが成功の鍵を握ることとなる。
したがって、血餅の維持安定には、骨欠損形態や歯肉弁の安定、さらには、歯の動揺のコントロールに注意する必要がある。例えば、治癒期間中に過度な歯の動揺が起こると歯根表面と血餅との界面に破壊的な力が加わり、その部分を修復するために上皮の根尖側への移動が起こる。結果として、歯周ポケットが形成され再生にとって不利な環境を作ることにつながる。
<再生療法の臨床>
それでは、前述の患者選択や再生の3原則を踏まえ、骨欠損を伴った深い歯周ポケットに対して、実際の臨床ではどのように再生療法を活用するのかについて解説するとともに症例を供覧する。ただ単に歯周環境改善のために再生療法を行うのではなく、本記事の大命題である「永続性のある治療結果」の獲得には、どのようにマネージメントすべきかを考えていきたい。基本治療後の再評価で骨欠損を伴った深い歯周ポケットが残存した場合、その骨欠損が適応症の範囲内であれば、再生療法を用いて骨欠損の回復に努める。一定期間経過後、全ての症例において骨の平坦化が達成できるかというとそうではなく、多くの場合、歯根周囲に若干のクレーターが残存する。そのクレーターを放置しておくと、将来的に歯周病再発のリスクとなるため、改めて骨のレベリングを行う必要性がある。
これが、リエントリー手術であり、生理的な骨形態獲得のために行う処置である。また、その際に歯肉歯槽粘膜にも問題が残存している場合は、骨のレベリングと同時に角化歯肉の移植を行い軟組織の条件も改善しておく(図6)。この一連の流れを、症例を通して解説する。
《症例》
本症例は、全顎的に歯周病が中等度から重度に進行し、全顎治療を希望され来院された歳の女性である(図7a)。
他院にて定期的にメインテナンスを受けておられたが、歯肉からの出血や歯の動揺を主訴に来院。メインテナンスを受けておられたこともあり、一見、顕著な歯肉の炎症は確認できないが、歯周組織検査やレントゲン写真からは歯周病の進行がうかがえ、歯の挺出や動揺、メタルでの固定等が観察された(図7b)。
まずは、基本治療にて歯肉縁上縁下のコントロール、根管治療などを行いながら、歯肉や患者の反応を確認。当患者は、非常に真面目な性格で協力的であったこともあり、再生療法に移行できる条件であるFMPSやFMBSの基準15%を目標値近くまで達成することができ、再生療法が可能な状態となった。再評価にて、左上、左下、右下臼歯部に骨欠損を伴った深い歯周ポケットの残存と分岐部病変が確認できたため、再生療法へと移行した。
右下と左下は、残存骨壁が残存し比較的血餅の維持安定が得られやすい骨欠損であったためリグロス®と骨補填材を用いた再生療法を行った。左上は、残存骨壁も少なく浅くて広い骨欠損に加え、左上6番にはⅢ度の分岐部病変が存在したため再生療法の適応症ではないと判断したが、患者の希望もありオープンフラップにリグロス®を用い保存を試みることとした(図7c・d)。全ての部位で約1年経過後に再評価を行ったが、若干の不規則な骨形態が残存していたため、骨外科処置にて可及的に骨のレベリングを行い、さらに、付着歯肉が全く存在しなかったため、リエントリー手術時に角化歯肉の移植を行った(図7e)。
確定的外科後、補綴装置にて機能回復を行い、安定した咬合が獲得された(図7f)。
術後の歯周組織検査やパノラマ線写真からは、目標としていた浅い歯肉溝と生理的な骨レベルが獲得できているのが確認でき、再生療法と切除療法を上手く融合させたことで安定した抵抗性の高い歯周組織が獲得された(図7g)。さらに、本症例のように全顎的に歯周環境を整えておくことで、永続性のある結果へと導くことができたと考える。
今回は、4回に亘って、「科学性のある歯科治療で永続性ある治療結果を目指して」というタイトルで記事を書かせていただいた。総括すると、歯周炎によって生じる様々な口腔内の問題解決には、非外科処置のみの治療では限界があり、歯周外科処置が必要となる場合が多い。患者は、歯科治療に対して「安い・早い・痛くない」を希望されるのは当然のこと。しかし永続性のある治療を実現しようとすると真逆の「高い・長い・痛い」が必要な場面もある。患者の望む永続性のある治療結果を実現するためには、積極的な歯周治療を実践することで起こりうる「高い・長い・痛い」の価値をしっかりと説明し受け入れていただくことも我々の使命と感じる。
今回の記事を読んでいただいたことをきっかけに、皆様が日々の診療に積極的な歯周治療を取り入れていただき、患者の健康をより確実に守るための一助となれば幸いに思う。
~筆者プロフィール~
大川歯科医院 大川敏夫
<略歴>
◎1998年 大阪歯科大学歯学部 卒業
◎1999年 医療法人 おくだ歯科医院 勤務
奥田裕司先生 師事
◎2012年 大川歯科医院 継承 / JADS ペリオコース 常任講師
<所属・資格>
◎元 東京歯科大学歯周病学講座 客員講師
◎日本歯周病学会 歯周病専門医
◎日本臨床歯周病学会 歯周病認定医
◎日本顎咬合学会 認定医
◎日本口腔インプラント学会 会員
◎アメリカ歯周病学会 会員
◎OJ正会員
◎K-Project会員
◎JSCO(JIADS STUDY CLUB OSAKA)会長
第1回WEBセミナーはこちらからご視聴いただけます。
第2回WEBセミナーはこちらからご視聴いただけます。
第3回WEBセミナーはこちらからご視聴いただけます。
第4回WEBセミナーはこちらからご視聴いただけます。
※ODCホームページの会員登録を済まされた組合員・賛助会員のみご視聴いただけます。